バス停-ほどけた父との記憶-

からだとこころ

小学校2年生か3年生くらいだったかな
ある夜、宿題をやるのを忘れていて、はっと青ざめたことがあった

宿題は、「バス停を書いてくる」というのだった
窓の外はもう暗かった、どうしよう

母は台所にいて、父がテーブルで新聞を読んでいた
私は、父に何か言ったのだろうか?まったく記憶にはないのだけれど、すでに暗くなった道を、父は一緒に来てくれた

黙々とバス停を描く私に、父が不思議そうに言った
「時刻表を写すんじゃないの?」

そう、私はなぜか、バス停の外観をデッサンしていたんだよね
え?そういうこと?そういう意味なの!?いや、そういう意味だよね!!
私は、なぜか知らんけど、バス停を描くんだなと、そう解釈してしまっていたんだよね!!

気が付いた瞬間にとても恥ずかしくなった
その通りだ、誰もバス停のデッサンなどして来いと言ってない

なんでそんな思い違いをしてしまったんだろうと、意味がわからない!と我ながら驚きながら、恥ずかしさと、時間が無駄に費やされた申し訳なさで、うなだれながら次のページに時刻表を写した

多分変わった解釈をする子、意味わかってないなこいつ、とは思っただろうけど、父は何も言わなかったし、馬鹿にした態度など全く見せなかった 軽蔑するでも、あきれるでもなく、淡々と時刻を写してくれていた(後から聞いたら、この時刻表あると便利だと思ったから、だそうだ)

…でも、私は何か言ってほしかったんだなぁ
笑ってくれるでも、よかったのかもしれない

あぁ、これは何か言ってほしかった、安心させてほしかったんだ

失敗して、びっくりして、背中の逆毛が立って、困ってオロオロしている私を、安心させてほしかった
「大丈夫だよ」って言ってほしかった

困ったことが起きた時に、自分をなだめる方法を、まだ知らなかったから、それを教えてほしかったんだよなぁ
だって、親ってそういうの知ってるもんじゃない?(そうとも限らない)

今日は、急行から各駅停車に乗り換えなきゃいけなかったのに、いつものくせで大岡山で向かいのホームに来た電車に乗ってしまった
向かいの電車は別のルートに行ってしまう電車だから、今乗ってきた電車の次に来る電車に乗り換えなきゃいけなかったんだけど、間違ってしまった

はっ!間違った! 一駅前に戻って、各駅停車に乗らなきゃ 間違って乗ったのが急行じゃなくてよかったー急行だったら自由が丘だったよ
えーとここはどこだっけ?緑ヶ丘だから、歩いたほうが早いな、即座に検索して道を探す

方向と時間が大体読めたあたりで、待ち合わせの時間間近、LINEが届く
10分ほど遅れますと返信してから、踏切待ちを利用して、逆立った背中の毛をゆっくり撫でで(イメージです)、自分で自分を安心させていく

何度も深く息を吐いて、身体をゆすって、肩から背中に走った緊張を、ゆっくり解いて
「大丈夫だよ、こんな間違い、失敗でもなんでもないよ」
と、自分に声をかけていく

その時、あのバス停の蛍光灯に照らされて、ふたりで黙々と時刻表を写す景色が浮かんできたのだ
今までも、たまーに(ほんとに、数年に一回程度)ちらりと思い出すことがあったんだけど、そこに今まで感情が伴ったことがなかった

今回は、「間違った!」という焦りをフックにして、バリバリと逆立つ背中の毛が、緊急事態であることを教えてくれていた、つまりあの時の私も同じように、怖くて不安で緊急事態だったんだよね

あぁ、安心させてほしかったんだ、父に
私は、怖くて不安だった
わかってほしかった、父に

そこに気が付くと、ふわっと背中が軽くなった
「パパー!私、怖かったー!!」空に叫んでおいた

困ったことがあっても、もう自分で対処できるし、焦っても困っても、怖くても不安でも、自分のケアを自分でしてあげられるようになったよ
だからもう大丈夫、もう誰かに安心させてもらう必要はない

「失敗しても、間違っても、大丈夫
あなたはそのままで、愛されて、守られているから」

セルフビリーフリセットのお話でした

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